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第二十六候 腐草為螢(くされたるくさほたるとなる)
6月11日〜6月15日頃
土の中で育った蛍が、草の下から現れる時期
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演奏表現とはいったいなんだろうかと、大学の頃からずっと思う。いま、入梅となり、夏の香がする。今度ある演奏で久石譲さんのsummerを弾くとき、どうすれば夏の香を、夏のひかりを込められるだろうか。
思いを演奏に反映させる、ということが、具体的にどういうことなのか、どういう作用機序なのかは、まだほとんど分からない。でも、どうすれば感情を演奏にたくさん載せることができるのかは、経験則として少しわかる。表現したい感情をよく見つめ、その質を掘り下げて理解することは、必要な要素のひとつだ。
人と話すとき、相手がどういう属性の人か、どういう考えの人か、ぼんやりとしか分かっていなければ、適切に言葉を選ぶことはできない。同じように、演奏に感情を表すときも、その感情が「楽しい」「悲しい」のようなぼんやりとした幅のあるものでは、適切な音色や音価を選ぶことは難しい。
例えば「たのしさ」を表したいとき、桜坊(さくらんぼ)の実をたくさん見つけたときのような心の弾み、とすることができる。紫陽花(あじさい)のひとひらひとひらの、淡い色彩の持つひかり、とすることができる。宵闇を飛ぶ蛍の一点のような、ふわっと明滅する明るみとすることもできるし、蝸牛(かたつむり)が僅かながら着実に進む、進むということの持つ感覚とすることもできる。
それらの表現に込められる微細なニュアンスは、自らの心の有り様をより正確に捉えていくための手助けとなる。「たのしい」という言葉が持つ幅のうち、どのあたりの部分を指すのか、絞り込んでいくことができる。幅が絞られれば、向かう方向もある程度定められる。どのような表現に近づけていけば適切か、理想とする表現も立ち現れてくる。そういったことひとつひとつが楽曲分析であり、楽曲解釈なのだろう。
いつでも、静夜思*のような心を通奏低音として持ちながら、その上に柔らかく手のひらを置くように、感情表現を積み上げていきたい。音楽における感情表現**について、より多くのことを知り、自分の頭と心で考えていきたい***。
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参考:
*静夜思:「床前月光を看る 疑うらくは是地上の霜かと 首を挙げて山月を望み 首を低れて故郷を思う」、”静夜思 李白”. 中国語スクリプト. http://chugokugo-script.net/kanshi/seiyashi.html, (参照 2024-06-15)
**音楽における感情表現:”音楽と感情の心理学”. 誠信書房. https://www.seishinshobo.co.jp/book/b87850.html, (参照 2024-06-15)
***自分の頭と心で考えていきたい:’You have the heart, y’all the courage to be independent thinkers. Independent thinkers. There’s nothing more valuable than that.’. “Kendrick Lamar Makes Surprise Speech at 2024 Compton College Graduation: ‘There’s No Place Like This One Right Here’”. billboard https://www.billboard.com/music/music-news/kendrick-lamar-surprise-speech-2024-compton-college-graduation-1235705540/amp/, (参照 2024-06-15)
参考図書・資料:
山下 景子(2013年)『二十四節気と七十二候の季節手帖』成美堂出版https://www.seibidoshuppan.co.jp/product/9784415314846
(仲夏、芒種・次候、第二十六候 腐草為螢(くされたるくさほたるとなる))
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