第六十九候 雉始雊 (きじはじめてなく)
1月15日〜1月19日頃
雉がはじめて鳴く時期
いよいよ寒くなってきた。朝、外に出ることにおっくうさを感じるほどには、空気が冷え冷えとしている。その反面、高く、蒼い冬空には癒される。
1月中旬は、七十二候によると雉がはじめて鳴く時期だという。この寒さでも、雉はどこかで高潔に鳴いているのだろう。特に求愛期の春になると、相手を呼ぶその鳴き声から妻恋鳥とも呼ばれるらしい。
先週出した自選5首にも、呼ぶということをテーマにした歌がひとつあった。
いまも呼び声にならない声はまだ受け止められず宙の衣裂き
西村二架
この歌はたしか、鬱状態にあったとき、何もできず、何かができるとも思われなかったときに詠んだ。動けず、過眠を唯一の安寧とし、何をしようとすることもできない自分が、何故か存在させられていることへの不条理に対して呼びかけたように思う。その声は、雉のケーンという鳴き声のように朗らかなものでは有り得なかった。人の耳には聴こえないが、宇宙の衣を裂くような、極限まで圧縮され先鋭化された嘆きがそこにあった。
いま私は、そういった類の慟哭から距離を置いて久しい。ただあの時から、いや幼い頃から、どこかに声を届かせたいという気持ちがあった。そのために音楽や文学を続けてきたように思える。
その声の向かう先は、今もまだ適切に言語化できない。ただ、外堀を埋めるような表し方をするなら、祈りが向かう先と同一のものであるように、今は感じている。
ひょっとしたら、冬に鳴く雉の声も、同じ類のものなのかもしれない。
(仲冬、小寒・末候、第六十九候 雉始雊 (きじはじめてなく))
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